「シネマスコーレ」での3週間上映、舞台挨拶を終えて
~「愛知夜間中学を語る会」代表 笹山悦子さんからのメッセージ~
3月22日から4月11日までの3週間にわたり、シネマスコーレさまに上映頂きました。
今回の上映は、新渡戸の夢を実践されている皆様にご支援いただき上映しました。
共催として公立夜間中学の設立及び充実を求める愛知連絡協議会、愛知夜間中学を語る会、後援として地域共生ネットワーク東海の皆様が上映を支援くださいました。また、シネマスコーレさまのご配慮で、22日、23日、30日と3日の舞台挨拶を組み込んでいただき、3週間の上映は、明治から現代まで続く、未来の教育者である新渡戸稲造の「夢」を伝える活動となりました。

左から、高橋龍介さん、サプコタジョティさん、笹山悦子さん(3月30日)

左から野澤監督、笹山悦子さん
「愛知夜間中学を語る会」代表 笹山悦子さんからのメッセージ
4月22日と30日の舞台挨拶に寄せて
22日は、野澤監督との上映後の舞台挨拶。30日には、仲間の高橋龍介さんとサプコタジョティさんと私の3人での舞台挨拶。お客さんたちは、なぜ野澤監督と笹山の舞台挨拶なのか、はじめ「きょとん」としていらっしゃいましたが、エンドロールが終わり、数秒のちに「衆議院議員会館」の映像が流れて工藤慶一さんの「訴え」の部分、画面右で何度も「YES!YES!」とうなづくおばさんの映像を思い出して「なるほど」と気づくという「仕掛け」です。
135年前に掲げた新渡戸稲造の理想が、時を超え、場所を超え、現代の北海道で自主夜間中学を立ち上げた工藤さんにつながり、そしてその思いは、名古屋で奮闘する小さなおばさんにつながるというところ。「エンドロールまでが一本の作品です」という映画人の想いを超えて、エンドロールが切れて館内に灯りが満ちる前まで席を立たずに見ていただければ、この「仕掛け」に出会うことができるという、素晴らしい流れになっています。
新渡戸稲造の理念の現代的意義
新渡戸稲造の理念は、実践する方々の理念の核となっています。「理念」の解釈が時代の制約上、その時々の為政者にうまく使われてしまい、「個人の命以上の自己犠牲を良しとする」という受け止め方には異論もありますが、新渡戸が唱えた「誰にでも学ぶ機会を保障」するという「理念」は、日本も批准した「国際人権規約」にも保障されている人権の一つでもあり、国際規約が制定されるずっと前の新渡戸が生きた時代にしっかりした実践ができたということに、「自由な現代」を生きているはずの私たちは驚きを隠せません。
現代の実践者たちと「夢」への挑戦
映画では、様々な関係者の証言や「夢」につながる実践が紹介されています。「夢」の一つ、札幌の工藤慶一さんが立ち上げた自主夜間中学「遠友塾」。2020年度の国勢調査では、小学校卒のみとか中学校中退など義務教育未修了者が全国に90万人もいることが判明しています。人数的には北海道が一番多いのですが、その次に多いのが愛知県だとのことで、その数約4万人。名古屋市にも約1万人強の義務教育未修了者がおられます。新渡戸の「夜学校」にルーツを持つ「夜間中学校」は、そうした大人になった義務教育レベルの学び直しが必要な人のための学校です。ただし、公立の学校を一つ作るのには莫大な費用が掛かります。そこでボランティアが主宰する自主夜間中学が代替の場となり、必要な方がたへの支援にあたっているわけです。
名古屋から——外国人と学びの希望
札幌「遠友塾」では日本人の高齢者が多いのが特徴ですが、名古屋の「自主夜間中学はじめの一歩教室」では、外国人労働者の家族が多く参加しています。30日の舞台あいさつで登壇してもらったジョティさんは、日本語の支援とともに教科の指導も受けながら定時制高校に進学し、この春、卒業と同時に日本の会社に正社員として採用されたネパール人です。故国であれ、日本であれ、日本での9年の義務教育期間を修了していないと日本の高校進学ができません。ただし、国によっては9年ではなく8年しかないところもあり、その1年のために高校進学ができない外国人生徒もたくさんいるのです。自主夜間中学では、キャリアにつながる公的な「卒業証書」が出せないため、こうした生徒を救うためにも、私たちの「夢」は、地元に公立の「夜間中学校」を作ることがメインでした。
名古屋市立夜間中学校の開校とこれからの夢
4月7日、念願の名古屋市立夜間中学校の開校式が「新渡戸の夢」上映期間中にありました。「夢」の一つがかなったわけですが、実は、まだまだ道半ばなのです。公立の夜間中学に通えない事情のある人々を地域で支える自主夜間中学の教室の使命を全うすること。これが新たな「夢」となりました。地域の課題に向き合いつつ、行政の責務遂行を促しながら当事者を包摂的に支えていくという自主夜間中学の実践をより多くの方々に知っていただきたいと願っています。
映画から「夢」を受け取った皆さまへ
この映画をご覧になった皆さんが、映画からもらったそれぞれの「夢」を育みながら、豊かな人生が歩めますように。
(2025年4月14日 もうすぐ葉桜の名古屋から)
参考情報
自主夜間中学「はじめの一歩教室」
https://ippoclassnagoya.amebaownd.com/