とちぎに夜間中学をつくり育てる会 代表 田巻松雄氏からのレポート

2025年3月8日(土)に「新渡戸の夢~学ぶことは生きる証~」の自主上映会を宇都宮市のとちぎ福祉プラザで開催しました。午前午後夜間に3回上映会を行い、400名を超える多くの人が観に来てくれました。映画上映後は、札幌遠友塾の工藤慶一さん、野澤和之監督らで座談会を行いました。映画も座談会も良かった!という声が寄せられて、大変嬉しい一日となりました。

「新渡戸の夢」が札幌や東京で上映されていることを知り、栃木県でも上映会を開催できないだろうか、自分を含む数名がこんな想いを共有していましたが、ようやく2024年11月初旬に具体的な話し合いを行うことができました。大宮駅近くの喫茶店に集まったのは、プロデューサーの並木秀夫さん、群馬共同映画社の日沼和佳さん、日沼大樹さん、カバリェロ優子さん(とちぎに夜間中学をつくり育てる会 役員)、大谷雅代さん(とちぎ自主夜間中学宇都宮校 運営委員)、そして、田巻の6人でした。

栃木関係者は誰も自主上映会を行った経験はないのですが、並木さんや日沼さんの説明などを聞いているうちに、何とかなるかなあ、何とかしたいなあとの想いが強くなり、翌年の3月までに実現することを目標に、まずは会場探しから始めました。2025年3月に自宅近くのとちぎ福祉プラザの多目的ホールが一日中使用できることを確認、早速仮予約。2024年12月21日(土)に試写会を行うとともに、集まった約20名でとちぎ上映委員会を立ちあげました。とちぎに夜間中学をつくり育てる会、特定非営利活動法人とちぎ自主夜間中学、栃木県若年者支援機構を協力団体として、有志が上映委員を務める形としました。翌1月はチラシの作成や後援申請の準備などをして、上映会当日までの前売りチケット販売に向けての打ち合わせを1月25日(土)に開催。チケット販売状況と当日までの課題の確認のための打ち合わせを2月22日と3月1日に行い、当日に臨みました。


当日の様子を紹介します

午前の部は10時開場(10時半上映)だったのですが、朝早くから当日券を求めにきた人も予想以上に多く、受付付近は嬉しい混雑となりました。上映前の挨拶でステージに上がったところ、いきなり盛大な拍手が・・良い雰囲気でスタートが切れました。

自分自身は昨年12月の試写会に次いで2回目の鑑賞だったのですが、今回の鑑賞の方がより深く内容を理解出来て感銘を受ける場面も多かったです。そして、聞けば聞くほど、遠友夜学校校歌は素晴らしい。

「沢なすこの世の楽しみの 楽しき極みは何なるぞ北斗を支ふる富を得て 黄金を数へん其時か オー 否 否 否 楽しき極みは なほあらん。」
「正義と善とに身をさゝげ 欲をば捨てて一すぢに 行くべき路を勇ましく真心のまゝに進みなば アー 是れ 是れ 是れ 是れこそ楽しき極みなれ。」


大好評の座談会でした

会場の都合で3月8日の上映会となりましたが、札幌遠友塾の工藤慶一さんに来ていただけたことは本当にラッキーでした。上映終了後の座談会も3回行いました。工藤さん、野澤さんに加え、並木さんと宇都宮生まれの音楽監督 合田享生さんにご登壇いただき、田巻が司会のような役を担いました。繰り返しになってしまいますが、座談会も面白かったという声が寄せられて、何よりでした。


鑑賞された方からの感想
観賞された方は様々な想いを胸中に岐路につかれたと思います。アンケートを実施しなかったのですが、何人かが感想を寄せてくれました。以下、紹介します。


ペルー国籍、30代女性

鈍器で思いっきり心を殴られたほどの衝撃を受けた。私は受け身だった。私は間違っていたようだ。教育という聞きなれたこの耳障りの良い言葉は、文字通り教え、育むという意味だ。しかし私は、指導者が生徒へ教えることで、生徒を育ませることが教育だと大きな勘違いをしていた。そうではなかった。この映画を観て教育が共に教えあい、育みあうことだったのだと気づかされた。そして同時に、育みあっている教育ができている学校はどのくらいあるのだろうか?と疑問がわいた。受験・試験突破という鉄の箱に、教育が閉じ込められてしまっているのではないだろうか。今こそ、この箱から取り出してあげないといけない


日本人、60代女性

2部構成で感動も2倍。前半では、新渡戸稲造の教育に対する深い思いが丁寧に描かれており、学問としての教育のみならず、学ぶことがいかに人間形成にとって重要であるかが伝わってくる。後半では、現在の夜間中学の映像が流れる。「理解する喜びを知ってほしい」と、熱の入った授業をする教員。生徒さんは「学ぶのが楽しくてたまらない」という思いが溢れ、「できたね!」とほめられると、花がほころぶような笑顔になる。改めて「学校っていいな」と思ってしまう。ところどころに挿入される、自然豊かな風景や音楽も実に心地よく、見終わった後に、「また観たい」と思わせる良質なドキュメンタリー映画である


日本人、男性60代 上映委員会スタッフ

新渡戸の夢の上映会にスタッフとして参加することができた事に感謝致します。上映会に先立ち豊郷地区市民センターで前売り券の割り当て分を受け取った時には正直捌くことができるのか、不安が募ってきました。

 早速、妻に前売り券をみせると「新渡戸って、前の5千円札の人だよね。何の映画なの」と全く関心のないような返しに、愕然としました。「新渡戸さんは5千円札より『武士道』の著者として世界的に有名なんだよ。アメリカのルーズベルト大統領も認めているんだから」と付け加えるが、歴史に全く疎い妻には理解してもらうことはできませんでした。

 郷土史の例会にパンフレットを持っていったら思わぬ情報に驚愕致しました。
「新渡戸さんは真岡市の水戸部に訪れたことがあるという記事を読んだことがあるよ」と会員の女性が教えてくれました。地元の新聞社に問い合わせると、「10年前になるとデータが残っているか分かりません」と突き放されてしまいました。知り合いの記者に頼みこんで記事を送付して頂きました。

 見出しに「新渡戸の源流は水戸部」と書かれてあり、そのワンフレーズに頭をガツンと叩かれた気分に陥りました。水戸部は郷里の近くの集落。次第に何とかして、完売しなければと言う郷愁に突き動かされてきました。所属しているいろんな会にパンフレットを持っていき、売りこみをしましたが反応はイマイチでした。

 最初に必ず「新渡戸って誰なの」と言われるのが常にでした。「5千円札の人物」と持ちだすと分かってもらいましたが、購入してもらうことはできませんでした。全然期待してなかった自分史の会の女性が8枚買ってくれたのがキッカケで、燎原の火が燃え広がっていくように売れてゆき完売することができました。

 上映会後、初めに購入してくれた女性からメールが届きました。
「見終わってから、みなさん考えさせられたと喜んでいます。良い機会を与えてくださって感謝です」「新渡戸の夢」の細い糸がやんわりと繋がってきたのでは。


日本人、女性60代

「新渡戸稲造」のことを知りたいという思いを持ちつつも、「明治の夜学校」の話が今の時代の私たちにどれくらい響くのだろうかという思いも持ちつつ上映会に行きました。映画を見ながら、「学ぶ」ことの喜びをふつふつと思い出している自分がいました。多くの外国籍の人たちと一緒に暮らしている現代の日本社会、私の周りにも学ぶ場を渇望している人たちがいます。時代は移り変わりましたが、やさしさのある教育が人を育て社会を作っていくことは変わらないのだということを気付かせてくれた映画でした。


日本・ケニア国籍、男子中学生

This is a story of the origin of night schools in Japan. Night schools provide education for those affected by wars or poverty. This school was established in 1895 by Nitobe. Nitobe wanted to spread this around Japan. However, he unfortunately passed away midway through. And Mr. Kudo wanted to fulfill Nitobe’s dream. He presented it to parliament, where it was recognized. Night schools are now available in Tochigi and many other locations.Remember, this is an ongoing issue. Let’s not forget it and appreciate the privilege of going to school. Thank you.


中国籍、30代女性

 初めて映画館でこのような日本のドキュメンタリーを観ましたが、日本の歴史を学ぶような感覚でした。日本語はあまり得意ではありませんが、大部分の内容は理解出来ました。外国人にとって、このような体験は得に貴重に感じます。

 自主夜間中学から最も強く感じたのは、このような組織があることで、年齢、国籍、学習レベルに関係なく、学びたいという気持ちさえあれば、いつでも学びことが出来るということです。

 この映画は私にとって大きな励みになりました。私は、映画に出てきた夜間中学のおばあさんのように、日本語を学び続けたいと思います。時々、人に笑われるのではないかと心配になることがあります。新しい言語を学ぶには、私の年齢では少し遅いのではないか、学習能力や記憶力も落ちているのではないか、と感じることがあります。この年齢になっても、まだ流暢で適切な日本語が話せないことに、少し恥ずかしさを覚えることもあります。でも、今はもうそんな心配はまったくありません。

 新渡戸先生が最初に夜間学校を北海道に開設したのはなぜでしょうか。私が思うに、東京のような大都市と比べて、北海道の方がこうした学校をより必要としていたからではないかと思います。このことにとても感動しましたし、日本が教育を大切にしていることを深く感じました。学ぶ場を作るということは一見シンプルなことに思えますが、その背後には多くの人々の支えと努力があるのだと気づかされました。

 そして、幸運なことに、私も夜間学校の学生になることができました。この貴重な機会を大切にして、しっかり学んでいきたいと思います。

 もし今後、夜間中学で日本の歴史や風習についての授業が開講されるなら、私は真っ先に申し込みます!♡ 日本の先生の授業を聞けるのをとても楽しみにしています。そうすれば、日本のことをもっと深く知ることができるからです。


日本人、女性80代

「新渡戸の夢」の映画を見て、夜間中学とは若い人達のものと思っていたが、高齢者が楽しく懸命に勉強している姿を見て、びっくりした。また、異国の地に嫁いだメアリー夫人、札幌の「遠友夜学校」設立に自分の遺産までつぎこみ、夫稲造と共に努力を重ねた。明治時代の男社会の中で堂々と生きた強い女性に感銘した。
 博愛精神を引きついだ市民グループによる「遠友夜学校の水脈」は他県にまで注いで来ていることは「すばらしい」の一言である。自然災害の少ない温暖な宇都宮、地味に又他人の生活に気をまわすことの少ない社会からか、夜間中学設立が後れたことと思われた。 ふと、「生きる」とは「と共に生きる」と。今回の映画をみて、社会にもっと目を向けることと反省した。私も新渡戸の言葉「遠友になれる人」になりたい。



最後に

この上映会はわれわれの自主夜間中学の活動を広く知ってもらう良い機会ともなりました。ご協力いただいた皆様、鑑賞に来てくれた皆様、厚く御礼申し上げます。

とちぎに夜間中学をつくり育てる会
代表 田巻松雄


参考情報
とちぎ自主夜間中学宇都宮校 ホームページ
https://tycu.cloudfree.jp/management.html


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