2025年2月24日(月祝)に、愛知学院大学におきまして、自主上映会及び「札幌遠友塾自主夜間中学」の工藤慶一氏による講演会が開催されました。愛知夜間中学を語る会(主催)、公立夜間中学の設立及び充実を求める連絡協議会(共催)、地域共生ネットワーク東海(後援)の3団体連携の基、約70人の方が参加され、開催されましたことをお知らせいたします。名古屋では、2025年4月に、名古屋で初めての公立夜間中学、市立なごやか中学校が開校になります。


『はじめの一歩教室』支援者・元毎日新聞記者 高橋龍介氏からのレポート

ちょうど2年前、2023年2月19日に、私は名古屋市内で開かれた会合で工藤さんのお話を初めてうかがいました。2021年に自主夜間中学のボランティアを始めましたが、それまで夜間中学がこの国に生まれた経緯や、公立夜間中学の開設運動を進めていた先達の歴史を何も知りませんでした。新天地を求めた戦前戦中の開拓民らが敗戦によって帰国しました。しかし彼らの多くは故郷に戻ることができず、国内で「第二の移民」となって戦後を生きた歴史を知りました。彼らの生活は非常に厳しく、地元農民が開墾をあきらめていた荒れ地に入って敗戦後の生活を一から築かなければなりませんでした。以前の記者の仕事の中で、富士山麓の朝霧高原や岐阜県郡上市のひるがの高原などに彼らが拓いた酪農地があることは知ってはいました。恐らく全国にあるのでしょう。

 2020年の国勢調査の結果、義務教育未修了者が全国に約90万人、最多は北海道の5万8,444人、しかも2位の愛知県の4万3,072人を大きく上回っていることが初めて判明しました。なぜ北海道なのか。その理由を説明してくださったのが、工藤さんでした。

 この日のお話でも満州や南方からの引き揚げ者の入植が困難を極めたことが触れられました。当然、僻地に家を建てた開拓者の家は学校から遠く、しかも子どもは労働力として働かざるを得ません。

 『武士道』の著者として知られる新渡戸稲造が北海道に初めて自主夜間中学「遠友夜学校」を開いたのは1894年。日清戦争開戦の年でした。夜学校は1944年、軍事教練を拒否したために閉鎖されましたが、新渡戸の精神を受け継ごうと1990年に工藤さんらが現在の「札幌遠友塾」を設立しました。工藤さんらの活動は、全国の自主夜間中学の設立運動に影響を与え、名古屋の自主夜間中学「はじめの一歩教室」の指針ともなりました。

 講演で工藤さんは拙著「『はじめの一歩教室』やってるよ!』を取り上げてくださいました。その一節がすばらしいと話された工藤さんは、それを書いた私に読み上げるよう求めました。「生まれた国が違っても、生まれた時代が違っても、『勉強したい』と願う人がいるならばその意欲を支えたい」というのがそれです。札幌では日本人高齢者、名古屋では外国ルーツの子どもたちなど、地域によって異なる自主夜間中学の特色、違いを超え、「わかった!」という笑顔を広げることが、義務教育を終えることのできなかった約90万人の幸福追求権を支えることだと示されました。それは難しいことではありません。「わたし、デイサービスでみんなが歌える唱歌を歌えない。がっこうにいけなかったから」というおばあちゃんの、「美しい物語を読んで泣いてみたい」という希望をかなえることです。 工藤慶一さん、ありがとうございました。

左から「はじめの一歩教室」笹山悦子さん 工藤慶一さん


視聴されたお客様からの報告

MOさん(男性)

新渡戸稲造については、名前程度しか知らなかったため、その業績を学習するつもりで、映画を見始めた。ところが、この映画によって、業績を知るだけでなく、遠友夜学校に通っていた生徒の子どもや札幌遠友塾自主夜間中学の実践などを通じて、新渡戸の想いが今も脈々と受け継がれていることを知った。そして、映画を見終わり、新渡戸が今もどこかで見守っている気がした。映画の中で、札幌遠友塾自主夜間中学には、多様なボランティアスタッフがいることによって文殊の知恵が出てくるという話があった。こうした多様性こそが夜間中学の魅力であり、各地で増えつつある公立の夜間中学校にも、受け継がれてほしいと思った。新渡戸に見守られながら。


KMさん(女性) 

新渡戸稲造が1894年に創設した遠友夜学校は、貧しい子どもたちに学ぶ場を提供し、多くの人々の人生に影響を与えました。卒業生の息子が「丁稚奉公しながら夜学校に通った父親が『休む子も寝た子もいなかった』と言っていた」と述べたように、子どもたちは勉強に熱中していました。また、別の卒業生の息子が「中学校に行けなかった母が夜学校に通い続け、教育を受けたことを誇りにしていた」と語る通り、教育の機会が人々の自信となりました。この理念は1990年、札幌遠友塾自主夜間中学として引き継がれ、教育を受けられなかった人々が自己を取り戻し、夢や希望を追求する場となりました。この時代に誰もが学べる学校を作った新渡戸の先見性と行動力に深く感銘を受けました。


参考情報

「はじめの一歩教室」やってるよ!―名古屋の自主夜間中学奮闘記 高橋 龍介【編著】https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784886839763

「はじめの一歩教室」のホームページ
https://ippoclassnagoya.amebaownd.com

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